28歳~32歳

自ら、消費者へ届けたいと強く思った。

産地と消費地、ふたつの価値観の狭間。直接消費者に商品を届けたい。

漁師仕事も板につき安定してきた頃、周囲のいろいろな問題に目を向けるようになった。
一番感じたのは産地と消費地の価格差。
東京で3000円で売られている魚が、なぜか浜値では100円、200円の二束三文。
命をかけて漁に出る漁師が一番苦労しているのになぜ?の思いが強くなった。地元の漁師は消費地である都市部で魚にどんな値段がつくのを知らない。
その一方で都会の消費者も自分たちが買う魚の価値がわからない。
どちらも不幸という現実を知っているのは、東京から来て浦幌で漁師になった私だけだ。
それなら、漁、そして加工、販売を自ら行ったらどうだろうか。
そんな思いから直接消費者にお届けするショップをやろうと決意した。

手作りでスタート。食品加工、ネットショップ、結果は…。

妻と何度も相談を重ねた。
十勝川河口近くに土地を買い、自分たちで1年がかりで8坪ほどの加工場を建てる。
本格的な大工仕事など初めてだった。
スコップと一輪車で整地し、基礎を打ち、妻や友人の協力で知恵と力を振り絞って完成させた。
この過程で、十勝の開拓者たちの苦労を痛感。
同時にやれば何でもできることをあらためて実感した。
そしてオープンした「旬の逸品やさん」。
しかし結果はさっぱりだった。
浦幌という聞いたこともない町の、一漁師が開いたネットショップは商売に不可欠な信用というものがまるでなかった。

本物のししゃもの味を届けたい、楽天年間ランキング魚部門1位

縁あって楽天市場に出店、転機になる。
消費者に本当に伝えたいものは何か?自問した時、北海道の太平洋沿岸だけに生息する日本固有種「ししゃも」にたどり着いた。
名前は「漁師の本ししゃも」。さらに通常の通販のように「欲しい時に、欲しいだけ、都合のいい時間に」ではなく「販売期間は漁期である1年のうち2~3ヶ月のみ、お届け日はお任せ」という限定商品とした。
これが逆に消費者の購買意欲をかき立てたのだろう。
天然の魚ゆえのいや応ない限定。
美味しい食べ物を知って欲しいという、漁師である素直な熱意が伝わり、漁師の本ししゃもは、とうとう、03年「楽天年間ランキング魚部門」で1位に!

教わったことを伝えたい。恩返しがしたいと気づいた。»