近江からのメッセージ
都市と農山漁村が支え合う関係を築きたいと切に願って。
人・モノ・オカネが集中する「都会」。
天然資源や農林水産物が豊富で、広大な自然と心豊かな人たちが住む「十勝」。
東京1%、大阪2%、十勝1100%、日本40%、食糧自給率だ。
世界的な食糧危機が問題視されるなか、今後もお金を出せば海外から食糧が買える時代は続くのだろうか。
都市への一極集中が進む一方、命と直結する食を育む農山漁村は都市生活者にとっても重要であることは間違いない。
だからこそ思う。
都市と地方が、お互いの足りない部分を補い合い、共生の関係を作ること。
対立ではなく生かし合い、互いの信頼関係を築くこと。
「支え合う心」これこそが今のニッポンにとって必要だと思う。
真剣に思うこと。「支え合う心」これこそが今のニッポンにとって必要だと。
東京生まれの私は北海道十勝うらほろで漁師になった。
それまでの常識が全く通用しない、
大自然の中での生活は衝撃的であったが、
この生活の中で多くのことを学んだ。
そしてあることに気づいた。
それは、ここには都会のように華やかなものは何もないが、
人が生きていく上で必要で大切なものが全部あることを。
努力をしたら報われたい! 誰だってそう思う。
もし報われなかったら、努力が足りなかったという人もいるだろう。
でも自然を相手に仕事をして感じることは、
自然界では人知の及ばないことばかりで
報われないのが当たり前ということ。
ひとりひとりはちっぽけな存在。
だから他人と協力し、困った時は
助け合いながら生きていくことが大切。
自然と対峙する一次産業を通して、
この「思いやり」の精神や「助け合い」
の心が身に付くのかもしれない。
自然は厳しい。
日々、挫折や絶望感を感じながらも、
この心の優しさを感じられる一次産業に携われることが、
何物にも変えがたい財産だ!
そして、この心をメッセージとして、いま発信したい。
漁師時代にいただいた一通の手紙をご紹介します。人と人が支え合うことの大切さを伝えてくれた宝物です。
大事な大事な食べ物をとってきてくれて、
ありがとうございます。
自分で言うのもなんですが、
魚料理だけは、自慢です。
得意というわけでなはく、
真剣に取り組んでいる姿勢が自慢なんです。
おいしく調理できなければ、
命を与えてくれた魚に申し訳ないし、
命をかけてとってきてくれた漁師さんにも申し訳ない。
そして、調理するということ自体も命懸けの
神聖な行為なんだと思っています。
料理には、刃物と火を使います。
どちらも、いとも簡単に人の命を奪うことができる代物です。
人は、その命を保つために、
自らの命の危険と対峙している。
という真実を、生産者ではない私が実感できるのが、
料理をするという行為においてしかありません。
何もかもが、便利なほうがいい、安全なほうがいい、
という、市場経済型の「正論」の中で、
人間は動物であり、他の生物を捕食しないかぎり、
その生命を保つことができない、
という当たり前の理屈すら、かすんでしまっていますよね。
その現実がおかしいのだ、ということを忘れたくなくて、
私は真剣に料理に取り組みます。
そうであればこそ、私は、本物の食糧と戦いたいんです。
自然に育まれ、その自然に立ち向かった人の手から
届けられる食糧と取っ組み合いたい。
一生懸命にとってきてくれたものを、
一生懸命に料理して、
一生懸命、食らおう。 そう思いました。
この手紙をもらった時、とても幸せな気持ちになりました。
生産者であることに自信と誇りが持てました。
作り手が食べ手と交流するとこんなうれしい気持ち、喜びがあります。
いままでたくさんの「気づき」を贈ってくれた人たちに感謝の気持ちでいっぱいです!
近 江 正 隆